東日本大震災の発生から7年が経過した、2018年3月11日。
西東京市の柳沢公民館と柳沢中学校の共催、新町地域包括支援センターと民生児童委員の全面協力のもと、西東京市柳沢・新町地域で防災講座を行いましたので、その模様をお伝えしたいと思います。
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まずは、当日の様子です。
10時から15時という長丁場の講座でしたが、講座自体に中学生8名を含む31名、後ほどお伝えする昼食炊き出しボランティアに中学生5名を含む14名の市民や関係者が参加しました。
講座本編の午前中は、4グループに分かれて、柳沢・新町地域のまち歩きを行いました。まずは出発前に、配布した地図に、今回歩くコース付近にある避難所を確認しました。
実はこの地域は、旧保谷市と旧田無市の市境だったことや高校、大学も存在することから、近隣に5校が密集(市立保谷第二小学校、市立柳沢小学校、市立柳沢中学校、都立田無工業高校、武蔵野大学)している特殊な地域だと言えます。
そして、いよいよ防災まち歩きのスタートです。
一般的な防災まち歩きというと、電柱やブロック塀、エアコンの室外機などの「災害時に危険なもの」と消火栓や井戸、AEDなどの「災害時に役立つもの」を発見し、それを地図に書き込むことが多いかと思われます。
しかし、この講座は地域の共助の力を育むものですから、一般的な防災まち歩きの要素に加え、孤立し、様々な支援の網目からこぼれ落ちやすい「要配慮者」の視点を組み入れたいと考えました。
「要配慮者」とは、全ての人が災害時に何らかのことで困りごとを抱える中、命やその後の生活において、特に配慮を必要とする方々のことを指し、主に要介護高齢者や障害者、妊産婦や乳幼児、外国人などの方々が例として挙げられます。
今回の講座では、各グループに1台ずつ車椅子を渡し、順番に乗ったり、押したりしながら、まち歩きのコースを歩いていただきました。
また、人通りの少ない道では、2人1組になってもらい、片方がアイマスクをして、視覚障害の方の誘導をする際の「てびき」の「基本の姿勢」というものを身に付けていただきました。
車椅子に乗った方は、「最初は怖かった」、「予想以上にガタガタ揺れる」といった感想を言っていました。
また、車椅子を使う方にせよ、視覚障害者の方にせよ、当たり前のように地域で暮らすためには、ちょっと困ったときに誰かが少し手を貸してくれる社会になる必要がありますが、車椅子を押すこと、視覚障害の方を手引きで誘導することに、恐怖や不安感を抱く方が多いことも強く感じています。なので、まずはその基本を身に付けるということが必要だと思います。
今回は、災害時に取り残されがちな要配慮者の視点、ということで取り入れた取り組みですが、結局は普段から誰もが暮らしやすい街であれば、災害時も取り残される人がいなくなるのではないでしょうか。
講座では、中学生も大人も、講師である私が何も言わなくても、防災講座では珍しいこういった取り組みを通して、たくさんのことに気づきを得ていました。
さて、この時間帯に同時進行で、昼食炊き出しボランティアが、西東京市の備蓄倉庫に置かれている「アルファ米」(お湯を入れるだけで食べられるご飯)と豚汁の炊き出しをしてくれていました。
当初はアルファ米のみの予定でしたが、PTAのお母さま方が栄養バランスへの心配から、急遽善意で豚汁を作ってくださいました。
ごちそうさまをする前のミニ講座でも少し話しましたが、避難所の食事は炭水化物に偏りがちです。また、塩分や脂分の多い食事になる傾向にあります。やはり、ドタバタする災害時に何とかしようと思ってもできないのが実態ですから、平常時からどういったことができるかを考えておくことが重要だと感じます。
さて、午後は机を囲んで、グループワークです。
まず、西東京市をはじめ、あちこちの自治体では消火器を道端に設置していますが、消火器の限界は火が天井に達するまでです。そして、ある実験では、その時間が約2分30秒だということがわかっています。
ですから、街頭消火器という防災対策について、私は少し疑問を感じています。もし、そこに維持費がかかるのであれば、消火器の本数を減らすなりして、住民でも訓練さえすれば使うことのできる「D級可搬消防ポンプ」や「スタンドパイプ」といったものを、街中に設置しておくことの方が現実的だと思います。そんな投げかけをしました。
次に、要配慮者とはどんな方々なのかを参加者全員で出し合ったあと、各グループで2つ(2人)の要配慮者を選んでいただき、その方々が災害時に困ること、そして、どんなサポートや配慮が必要なのかを話し合ってもらいました。
午前中の車椅子体験やアイマスク体験からはじまり、講座の途中では食事ですら栄養バランスの欠けたものになるほど、災害時にできることは限られていることを知ったり、要配慮者を中心に、孤立し、支援の網目からこぼれ落ちていくことを学んでもらいました。
そして、そういった積み重ねがあった上で、①プライベートスペース、②コミュニケーション、③移動、④排泄、⑤食事・栄養、⑥物資、⑦医療的ケアのテーマ別に、それぞれの要配慮者が困ることや必要なサポート・支援について考えるわけです。
今回は各グループ2事例のみでしたが、平常時にどういった視点で考えるかという思考回路を育むことが、誰も災害時に地域から取り残さないために必要な根本にあることだと感じています。
まずはこの思考回路を育み、そこから色々と考えを巡らせることで、平常時の備えに繋がります。
最後に、14時46分に東日本大震災でお亡くなりになられた方々への黙とうを捧げ、この講座を修了しました。
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参加された中学生の感想を紹介したいと思います。
「東日本大震災の時は小学校2年生で、大人に連れられて中学校へ避難してきたけれど、次は自分の番だと思った。」
「今日のことは家族や友達にどんどん伝えなきゃと思った。」
「取り残されがちな要配慮者については、日頃から考えておかなければいけないと思った。」
今回の講座は、地域課題の解決に取り組む公民館から声をかけていただき、そこから中学校と共催という形になり、さらに、要配慮者の視点を取り入れるということで、地域包括支援センターやこの地域の民生児童委員や主任児童委員が参加しました。
また、西東京市には各公立小中学校に避難所運営協議会が設置されていますが、この組織に関わる地域住民も3校から参加しました。
公民館講座で、お隣さん・お向かいさんの繋がりを直接作ることはできませんが、今回の講座のように、地域のキーマンとなる方々が一挙に集まり、共通体験をしたり、一緒に学んでいくことで、その地域での防災活動や福祉活動、教育活動へと繋がっていくと思います。
この講座は、西東京市のネット情報サイト「ひばりタイムス」さんにも紹介されています。是非、併せてご覧いただければ幸いです。
http://www.skylarktimes.com/?p=14237
30年度も、この地域で継続的な地域防災講座を企画していくことになっているので、今後の発展が楽しみであるのと同時に、このような取り組みを支援させていただいていることに幸せを感じます。
ジョージ防災研究所
防災アドバイザー 小野修平