こんにちは。
防災アドバイザーの小野修平です。
今日は、学校での「子供の引き渡し」について、
思っていることを書きたいと思います。
最近では、公立・私立問わず、ほとんどの
幼稚園や保育園、小学校、中学校において、
大規模な災害が発生した際の対応として、
「園児・児童・生徒の引き渡し」が主流と
なりつつあります。
これにはいくつもの課題があるのにも関わらず、
現場ではそれを強く認識していない節があり、
とても危機感を抱いています。
(1)安全確保をした上での引き渡し
地震などが発生すれば、まずはその場で身の安全を図ります。
そして、多くの場合は、校庭で点呼をするというのが原則であり、
そのための避難訓練が繰り返し行われているかと思います。
しかし、大地震の後というのは、机や椅子などが散乱し、
なおかつ、窓ガラスが割れたり、天井や壁が落下している
ことが容易に想像されます。余震も起こるので、さらに被害が
拡大することもあるでしょう。
そんな中で、各自の荷物は取りにいくのか、上履きを外履きに
履き替えるのか、引き渡しは校庭か校舎内か、などといったことを
点呼をした後に判断していかなければいけません。
過去の災害でもそうでしたが、日頃から考え、訓練していない
ことは、いざという時にほとんど出来ないと言われています。
点呼をし、安否の確認をし終えた後、引き渡しまでにどういった
判断をしなければならないのか、という項目くらいはピックアップ
しておかないと、適切な対応ができません。
引き渡し訓練を見学させてもらうと、どうも、「時間内に全員を
引き渡すための訓練」になっていますが、最も大事なことは、
「子供全員を、安全に保護者全員に引き渡すこと」です。
そのためには、その時の状況を「適切」に判断しなければ
安全は確保できないわけですから、どういった状況が生まれ、
どういった判断パターンがあるか、ということを考えておくことが
学校に求められています。
(2)動線(誘導経路)の確保
園や学校のホームページを見ると、保護者に対して配布した
引き渡しに関するお手紙が掲載されているところもありますが、
ほとんどの場合、「○○門から入ってください」といったような
記載がありません。
多くの園や学校は、災害時に避難所として指定されており、
校庭部分も避難場所として指定される場合が多いので、
地域住民が学校に押し寄せるでしょう。もちろん、全ての門を
開放なんてことをやるのは論外ですが、学校(引き渡し)関係と
地域(避難)関係で門を分け、動線をそれぞれ確保するのは
大原則です。特に、都市部の人口が多い地域にある学校では
きちんと考えておかなければ、引き渡しにも避難所開設にも
大きな混乱が生じます。
(3)教職員の役割分担
教職員の役割分担として、本部班、情報連絡班、救護班、救出班、
消火班、避難者誘導班、というように班分けをして、教職員全員が
どこかに所属するような形で振り分けていると思います。
しかし、実際はほとんど機能しないでしょう。授業中であれば
基本的に教員がクラスの子供達を連れて校庭に避難しますが、
もし万が一、火災が発生したのであれば、その場での消火や
応援を呼ぶといった対応が必要です。併せて、近くにいる子供を
早く避難させなければなりません。まさか、そういった状況で
自分は消火班ではないから消火しない、なんてことは無いでしょう。
全教職員に求められていることは、まず自分の命を守ることで、
同時に、子供達に身の安全を図らせることが必要です。その上で
ひとまず安全な場所(校庭など)に避難させ、安否を確認します。
その中で、救助や応急手当、消火が必要になれば行うのですから、
全員が救助も応急手当も消火もできるような体制でなければ
現実的でないのではないかと思います。
分かりやすくいうのであれば、役割が5個あるのであれば、それを
5個の班に分けて考えていることが多いように感じます。
そうではなく、5のうち、例えば管理職にしかできない役割もあれば、
全員ができるようになっておかなければいけない役割もあるかと
思います。それを全てまとめて考えてしまって、役割分担を
しようとしているので、「絵に描いた餅」状態のものになっているのでは
ないでしょうか。
また、少し話がそれますが、学校には消防法の規定により、
「屋内消火栓」が設置されている場合がほとんどでしょう。
また、「防火扉」もあるでしょう。教職員が行っている訓練と言えば、
「消火器」程度という場合がほとんどですが、「屋内消火栓」や
「防火扉」などは、被害を最小限に抑え、命を守るために設置されている
設備です。これらの使い方を知らず、いざという時に使われなければ、
いつ使うんですか?いざという時に使えるように設置されているのですから、
絶対に訓練をすべきだと思います。
(4)留め置きへの備え
引き渡し訓練では、ほとんどの保護者が迎えに来ますし、
来なくても帰宅させることができるので、それほど意識されないのですが、
実際の災害というのは、保護者がなかなか迎えに来れないわけです。
ということは、子供も先生も学校で一定期間生活しなければいけない
状況にも備えておかなければならないんです。
学校には備蓄倉庫が設置されている場合が多いですが、
基本的にそれは、避難所に避難してきた住民用という場合が
ほとんどだと思います。
確かに、子供も地域住民の一人ではありますが、行政だって、
企業だって、自分のところの職員・社員の分の防災用品は備蓄
しています。それなのにも関わらず、学校に子供や先生方が
留まった場合の備蓄が十分でないというのはおかしな話です。
また、ここでは詳しく触れませんが、市販の防災用品には
当たりはずれがあるのですが、見た感じですと、はずれの物を
備えている学校が多いように感じます。
むしろすぐには引き渡しができない、という心づもりのもと、
すぐにでも予算を付け、留め置きのための備蓄をする必要が
あります。
(5)避難所運営との兼ね合い
避難所運営は、「管理面(本部)」と「作業面」に分けられます。
そして、避難所運営は、「行政」「学校」「地域住民」が協力し合って
行うことが求められます。
ここで学校が適切に関与し、避難所体制の輪に入らなければ、
いざ学校の授業を再開しようとした時、上手くいかないということが
起こる場合があります。
それを防ぐためには、きちんと学校も初期の段階から関与して
おくことが何よりも大切です。
学校と言うと、子供がいれば子供の対応が最優先ですので、
どうしても学校の先生方の口からは、「子供がいれば、避難所対応は
できません」と消極的な発言をいただくことが多いのですが、
例えば、担任を持っていない先生もいますし、残りの人数が少なくなれば、
1組の先生が2組も面倒を見て、2組の先生が避難所対応に関わる、
といったことだってできるでしょう。
しかし、先程も言ったとおり、日頃やっていないことはできませんから、
子供の引き渡しももちろんですが、避難所運営についても学び、
訓練しておくことが求められます。
こういうふうに言うと、「あれこれ学校に求めるな」と言われそうですが、
日頃から少しずつ備えておけば、いざという時の負担を大きく減らせるので、
私は学校に求められていることをストレートに言うようにしています。
災害が起こった後、先生がヘトヘトになりつぶれてしまったら、
一番困ってしまうのは子供達です。災害が起こっても子供達の生きる環境を
守ってあげるためには、何事も日頃からの備えが大切だということです。
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というわけで、引き渡しには他にも色々と言いたいことはありますが、
続きはまた後日にでも。
子供が学校管理下で被災しても、無事に保護者に引き渡せるよう、
気持ちを改め、教育委員会や学校には対策を充実させていただきたいと
思います。
ジョージ防災研究所代表 防災アドバイザー 小野修平
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